研究レポート

南海トラフ地震とリスクファイナンス

南海トラフ地震とリスクファイナンス

はじめに

南海トラフ地震は今後30年間で80%以上の確率で来るのではないかといわれています。そうなると今後数年から50年程度の間のどこで来てもおかしくはないということになります。東海地区から西の大半の地域で程度の差があるも停電が起こるのではないかといわれています。サプライチェーンに大きな影響が出ます。一企業でこの対策をするというにはあまりにも無理があります。

政府は被害想定を基に企業や地方自治体に自助を求めるも地方自治体も政府からの助成と助言を期待して自らでは動くことができないという実態があります。また政府にも資金的な余裕がありません。ただでさえも余裕がないのに新型コロナウイルスの問題でさらなる財政出動が起こっています。コロナの次はやはり南海トラフを中心とした地震が問題になるのではないかと考えています。

莫大な損害が予想されている

東日本大震災の際の災害復旧費は80%以上が政府の国庫負担、残りの20%弱は震災特別復興税から捻出されています。地方自治体の負担分はほぼなかったそうです。南海トラフ地震の被害額は200兆円を超えるのでないかと予想されています。これは東日本大震災の9倍から10倍程度になるものと予想されています。また国家予算の2倍を超える額になりそうです。莫大な損害額が試算されています。この額を国庫と増税では到底間に合いません。

そこで政府と民間が一体になってのリスクコントロールという軽減策とリスクファイナンスという財政策が必要になります。

国に頼りすぎ

日本はリスクファイナンスを含めた災害対策を国に頼りすぎています。今までは社会主義型資本主義と言われた中央集権色の強かった日本なので今までの難局はこれで乗り切ってきました。ただ今までのように政府は財政面を含めて強さは期待できません。これまでの有事の際には国債の発行と増税という策で乗り切ってきました。

ただこの南海トラフの場合はこの手法が通用しません。多くの企業と市民の経済生活が破綻をしてしまいます。さらに日本の国債の信用度も下がりそうで国家自体も破綻を起こしてしまう可能性があります。政府・民間・国民の三重苦になってしまいます。

世界では

世界銀行では世界規模での地震などの災害リスクに対して保険などの財務的な転嫁(保険を手配しても実際の損害を賄い切れない場合を含む)の解消を進めています。その際にリスクファイナンスや防災投資に力を入れています。フィリピンの自然災害に対する再保険プログラム・チリやメキシコなどの中南米4カ国による地震CATボンドなどを行っています。できるだけ低コストで広く世界に普及できる先進的な金融商品の開発が進められています。

近年では保険業界で開発されたパラメトリック型の保険への期待も高まっています。このパラメトリック型保険は一般的な地震保険と違って地震の震度に応じた定額での支払いになります。損害額の算定が不要で保険会社の査定コストもかかりません。このため比較的保険料も低く設定されています。加入者にとっては比較的ありがたい保険ともいえます。また地震が起こって比較的早い時期に保険給付をされるのでメリットが大きいという点も捨てられません。

ニュージーランドでのクライストチャーチで起こった2011年の大地震では地震による操業の中断損害を補償していく保険を手配した企業で早めに保険金を頂けた企業ほど事業が早く回復したというデータもあります。このため早めの資金確保をできるような保険体制を作っていくことが大切になります。

日本も地震保険・地震デリバティブ・地震型CATボンドなどを検討するも大きな進展には今のところ至っていません。今後も南海トラフ地震・首都直下地震などの大きな地震が大都市近郊で起こることが予想されています。このような危機が間近に迫っているということを考えると災害対策のための保険商品・金融商品の開発は急務な状況といえます。