研究レポート

水害対策のリスクファイナンス

水害対策のリスクファイナンス

はじめに

梅雨前線の活発化や台風の大型化で近年は半端ない大雨が降るようになってきました。これまでの被害をはるかに超えるような想定をしていく必要があります。

中小企業庁が2018年秋に発行をした「中小企業の防災・減災対策に関する現状と課題について」で、防災意識を高く持っている企業はほんのわずかにとどまり、ハザードマップなどの利用もごく少数の企業しか行っていないことが分かってきました。

この面はリスクファイナンスの対策も例外ではなく、重要性を認識していく一方で水害を補償していく保険や共済への加入は半数以下にとどまっています。

国の中小企業への支援は有限

国も資源の問題や政策の関係上、すべての中小零細企業を支援していくことはほぼ不可能といえます。そのため企業は予めリスクに備えていくことがとても重要といえます。そのことで企業の損害を最小限に抑えることができます。さらにそこから事業継続計画を策定していくことでハザードマップの事前認知や被害状況の把握・さらにはそこからの資金調達や従業員の安全確保など、企業としてやるべきことが見えてきます。それが長期的に見て企業の生産性を向上させていくことにつながります。

保険金がなかなか支払わないケースも

水災の被害を補償する保険は、火災保険に水災特約を付けるのが一般的です。水害の場合の保険金の請求は保険会社による現地での調査が基本的に必要になります。同時に損害を受けた建物の見積書を被害を受けた会社から手配する必要があります。そこから保険金請求に必要な書類を準備していきます。

これがスムーズに行くと、早い段階で企業が保険金を受け取れることから事業活動の再開が早くなります。ただ被害の大きい地域は事態の把握に時間がかかることもあって、保険金の受け取りに数週間以上かかることも少なくありません。

早期での保険金の支払いは保険会社の大きな使命と言えます。このような課題に対してドローンなどの活用で、被災地域の早期の事態の把握をできるのではないかという期待も出てきています。

天候デリバティブ

また迅速な保険金の受け取りを実現していく商品として天候デリバティブがあります。気温や雨量などの気象の指標が一定の条件を満たした場合は、無条件で予め定めた金額が手に入る仕組みになっています。ただ天候デリバティブの要件もどんどん厳しくなっていくことも予想されます。今は要件を満たすものも、10年後は要件を満たせない場合も出てくるのではないかと思われます。この点は注意が必要と言えます。

保険会社の果たす役割

気候変動リスクの高まる中で災害に強い街づくりをしていくことが日本国・自治体・企業の共通の課題といえます。保険会社は保険という枠を超えて、防災力の強化・企業の事業の継続性に今以上に敏感になっていく必要があります。気候変動リスクや自然災害に適応した商品やサービス開発を進めていく必要があります。

参考資料・出典
日刊工業新聞:https://www.nikkan.co.jp/articles/view/567893?isReadConfirmed=true