研究レポート

流動性を確保していくためのリスクファイナンス

流動性を確保していくためのリスクファイナンス

はじめに

企業が外部から資金を調達することを事前に確保する手段の中に融資枠契約というものがあります。この融資枠契約というものを活用していくことで手元にある資金を企業が適正と判断していく中で一定水準に保つことができます。かつオフバランスにして流動性を確保することができます。

コミットメントライン

コミットメントラインは予め定めた期間および融資枠の範囲内で企業が一定の条件を満たすことを条件に企業の請求に基づいて金融機関が融資を実行する旨を約定していくものです。契約期間中に企業から銀行などの金融機関に対してコミットメントフィー(手数料)を支払っていきます。

コミットメントラインの提供者は相対方式では企業は各金融機関と個別に融資枠の契約を締結していきます。それに対してシンジケーション方式では主幹事銀行を中心にして複数の金融機関と一つのコミットメントライン契約を締結していきます。

メリット

コミットメントライン契約のメリットは次のようになります。

1:融資手続きの簡素化では資金を借入れていくたびに新たな契約を結ぶ必要がありませんので手続きを簡素化することができます。

2:融資枠を設定することでいつでも必要な資金を機動的に調達することができます。流動性を確保することができます。

3:流動性を確保しつつもオフバランス化することで手元流動性を圧縮していくことで資金効率を改善することが可能になります。

通常時の資金調達と同様にリスクの顕在化時の資金調達のニーズに対してもコミットメントラインを利用していくことで、企業はリスクが起こった後の信用力の低下や調達すべきコストの上昇を回避することができます。よって資金調達を事前に確保していく契約を締結していくことで一定程度のリスクに対応していくべきリスクファイナンス手法としても機能するといえます。

注意点

コミットメントライン契約の注意点は次のようになります。

1:自然災害などの甚大なリスクが顕在化した後の融資は想定されていないケースが多いです。

2:災害やシステム障害などの非常事態が発生した時に参加している金融機関が資金調達や送金が困難になった時に貸し付け義務を免除していく不可抗力条項が付されているのが一般的です。この点で留意点が必要になります。

3:リスクの顕在化による企業のダメージが大きくなります。その事業の継続性に大きなリスクがあるために貸し付け前提条件の未充足と金融機関が判断することで、融資実行が行われない可能性があります。こうした信用リスクの判断は個別の状況によって変化します。そのため災害の流動性の確保という観点からいうと難しい点が多くなります。

4:金融機関によっては貸出行為を非常時における最優先事項としないことも考えられます。こうしたことから平時に比べて融資が実行されるまで相応の日数を要する可能性があります。

またコミットメントラインの融資枠契約の締結条件が明示的な可能となっているのは資本金3億円以上の株式会社になります。緊急時の資金調達のニーズが高いと考える中小企業などは利息制限法に抵触するという見解もあって広範な範囲で活用できるレベルには至っていません。ただ中小企業の方が財務的な基盤が大企業よりも弱くリスクが顕在化した時の資金需要には耐えられないというところからも融資枠契約というものに意義があるのではないかと思われます。中小企業の方がこのような災害に対して運転資金を要する場合が多いのでこのような時のためにも柔軟な運用を行ってもいいのではないかという気がしてなりません。

コンティンジェント・デット

コミットメントラインの問題点を克服するものとして特定のリスクに対応していくための融資枠契約としてコンティンジェント・デットというものが注目されています。コンティンジェント・デットは事故や災害などの大きなリスクが起こってしまった時に予め定めた融資の限度枠や金利の条件によって、企業が必要としていく資金の機動的な借り入れを可能としていくスキームといえます。

国内で報告されているコンティンジェント・デットは特別目的会社を仲介させたスキームとなっています。このスキームは企業が特別目的会社と非常時の借り入れ予約契約を締結します。その際に企業は特別目的会社に手数料を支払います。特別目的会社は金融機関との融資契約を締結して融資などを受けることができます。その際に資産を運用して金融機関に利息を払います。天災などが起こった際には特別目的会社は一部もしくは全部の預け資産を崩して企業に資金を返還することができる制度です。

災害時には資産の毀損によって損失が発生します。また企業活動が停滞するので追加的な運転資金が必要になります。当座の運転資金はコンティンジェント・デットによって確保していきます。そこから資産の毀損を補うための設備資金及び当期の損益へのダメージを緩和していくために保険商品を活用することができます。リスクファイナンスを複数組み合わせた契約よりも効率的でかつ合理的にリスクに備えることができます。

ただコミットメントラインに比べて追加的なコストが生じやすいという面で注意が必要になります。特に地震リスクに対応したコンティンジェント・デットの場合は外部機関による地震のリスク分析費用や特別目的会社を通して金融機関に支払う地震のリスク相当のプレミアムなどのコストがかかります。