研究レポート

セーフティネットの高度化

セーフティネットの高度化

はじめに

今までは各リスクファイナンスの手法について特徴や取り組みなどについて述べてきました。ここでは企業が単独で対策を講じていくことが困難な突発的な災害や事故が発生をした時のリスクファイナンスとしてのセーフティーネットについて挙げていきます。

突発的な事故や災害はリスクファイナンス手法を活用してリスクに備えている企業でも十分に対応をしていくことが難しくなります。特に中小企業ではリスクファイナンス手法を取り入れるための人的な物的な余裕はありません。よって災害時にはセーフティーネットの活用も含めて対応していくことになります。

政府が提供をしていくセーフティーネットにはめったに起こらない頻度ながらも起こると大きな災害になってしまうような事例である災害について考えていきます。資金的な支援策としては政府系金融機関による災害復旧貸付制度や信用保証協会によるセーフティーネット保証などがあります。さらには産業基盤のインフラの早期復旧のための長期固定資金の提供なども存在します。またこれらの金融支援に加えて被災地企業への補助金の交付や国税の納税の猶予などを講じていく可能性があります。

政府系金融機関による貸付制度

災害復旧貸付は災害や突発的な社会現象などで資金調達が困難になった企業に対しての政策金融です。大企業及び中堅企業に対しては日本政策投資銀行が対応していきます。また中小企業に対しては中小企業金融公庫・国民生活金融公庫・商工組合中央金庫などが窓口になります。

災害救助法が適用された災害で被災した中小企業に対しての災害復旧貸し付けは一般の一般貸付とは異なる枠での貸し付けになります。また別途で融資限度額も設定されます。

セーフティーネット保証

セーフティーネット保証は中小企業法2条3項で定められている信用保証協会による保証制度です。突発的な事故や自然災害の発生などで売り上げの下がってしまった中小企業への支援として一般保証とは別枠で保証するものです。突発的な事故の発生に起因して適用されるものとしては米国同時多発テロの沖縄の観光事業者や病原性大腸菌O157によって影響を受けてしまった事業者への適用があります。

また突発的な自然災害に起因して適用がされたものとしては新潟県中越地震による被災や三宅島火山活動で大きな被害を受けてしまった事業者などが対象になります。また内閣府による激甚災害の指定を受けた災害による被災企業には中小企業信用保険法による災害関係保証の特例として一般保証とは別枠の保証枠が設定されます。

産業基盤の早期復旧

被災後に速やかに事業を再開させるためには電気・ガス・水道や道路・鉄道などの産業の基盤となっていくインフラの整備が必要不可欠になります。阪神淡路大震災後に産業基盤インフラを早期に復旧していくために政府は被災した鉄道事業者に対して鉄道軌道整備法に基づいての災害復旧事業費補助と日本開発銀行による低利融資という政策を執って191億円の補助金が阪神電鉄の事業者に・そしてJR西日本12業者に低利融資が行われました。

被災後の対応と事前の備え

阪神大震災後に神戸商工会議所が独自に行った調査では政府系金融機関からの災害復旧資金の融資に関しての問題を挙げました。そこには担保力の不足・手続きの煩雑さ・希望金額を借り入れることができない・融資の実行までに時間がかかるなどが挙げられます。また企業側も事業継続計画などの防災対策にはほとんど手を付けられない。融資を受けることで逃れたいというところが多くありました。

そのような対策を講ずることができない理由としては資金と時間という問題があります。事業再開のために必要な対応策としては大手企業がライフラインへの復旧や建物の設備の修繕などを挙げているのに対して、中小零細企業では運転資金の調達というものを挙げています。こうしてみても中小零細企業はまだ災害に対しての事前準備ができていないということが挙げられます。

中小企業が自身で災害に対する経済的な損失を最小限で食い止めることそして経済活動の継続性を担保していくことになります。災害に対しての事前の対策状況に応じて一定の優遇措置を講ずるなどの方法で中小企業のリスク管理に向けたインセンティブ付を行っていくような仕組みについても検討をしていく必要があります。

セーフティーネットの高度化に向けて

災害時の緊急融資については借り入れを希望している企業の返済能力の判断がとても難しくなります。また融資実行の即時性も強く求められます。以前には被災企業の資金のニーズが高まっていたのにもかかわらず公的機関の融資の受付開始が大きく遅れました。またその融資がほとんど行われなかったという苦い経験があります。

また融資には担保や保証などを求められるので多くの中小企業では借り入れをできないというのも現実としてあります。さらに大きな融資を受けない限りは災害からの復旧の難しい企業も多く実際に融資を受けても返済ができずに最終的には倒産に追い込まれる企業も多くあります。正確な与信判断と迅速な融資の実行という二律背反の事象をどうやって解決をしていくかというのについても今後の検討課題になってきそうです。

今後は事後的なセーフティーネットだけでなく、事前防止のためのリスク管理などをしっかりと行っていく必要がありそうです。このような環境整備をしていくことによって社会全体のセーフティーネット機能の高度化を図っていく必要が重要といえます。

参考資料
https://www.meti.go.jp/report/downloadfiles/g60630a03j.pdf#search=’%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%82%AF%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%8A%E3%83%B3%E3%82%B9+%E5%AE%98%E5%85%AC%E5%BA%81%E3%83%87%E3%83%BC%E3%82%BF’