ファイナイト保険はリスクファイナンスに活用できるか?
はじめに
ファイナイト保険は特殊なリスクを企業と保険会社でシェアするという考え方に基づいています。期間は複数年で個別のリスクに応じた保険料を一定期間一定金額ずつ支払っていく保険プログラムです。契約期間中の損害が少なければ契約期間の満了時に保険料の一部が返還されます。また損害が高額になった時には保険料の追加支払いの義務が生じます。複数年契約としていくことで大数の法則が聞きにくい特殊なリスクにも時間軸上にリスクを分散させていくことで保険化が可能になります。
ファイナイト保険とは
ファイナイト保険は個別リスクの保険化の対応が目的になるので定型的な契約形態は存在しません。その中でもファイナイト保険に共通するものとしては一般的な保険に比較して保険会社に移転されるリスクが限定されていることです。これをファイナイトといいます。限定されているということは以下のようなことを指します。
1事故あたり・1年間あたりで保険期間通算での保険金の支払限度額が設定されていること
大数の法則が働く一般的な保険に比較して保険金額に対しての保険料の割合が高いこと
保険期間中の損害の実績によって返戻もしくは追加の保険料が生じること・ただ優良なケースでは保険料が返ってくることもあります。
ファイナイト保険を利用する際のリスクとしては保険引受のリスクがあります。最終的な保険料の支払いが契約の時点で分からないというリスクがあります。あとは保険料の追加の支払いがいつになるのかが契約の時点では分からないというリスクです。
またファイナイト保険の提供者は保険業法上の保険契約に該当します。これは保険会社と企業との間で企業ごとのリスクに合ったプログラムを構築していくことで保険契約を締結していくことになります。
ファイナイト保険のメリット
ファイナイト保険のメリットは以下のようなものがあります。
1:保険引受の困難なリスクの保険化を行うことができます。リスク算定そのものの困難なリスクや保険事故の発生やその規模に企業の意図が介在をしてしまうようなリスクなどについてもリスクのシェアリングをしていくことで保険化対応の実現性が高まります。
2:長期的でかつ安定的な保険のカバーができます。通常の損害保険は1年ごとに契約の更新が必要になります。前年度の損害の発生状況や再保険市場の動向などによって保険の内容や契約条件さらに料率が変動をしてしまう可能性があります。ファイナイト保険の場合は保険期間が複数年となるので長期安定的なカバーをできることが期待されます。
3:リスクファイナンスに要するコストの平準化ができます。複数年の契約期間中に最終的な保険料の支払いが契約の時点で分からない・また追加保険料の支払いが契約の時点で分からないという2つの問題があります。ファイナイト保険ではこのリスクを保険会社に移転をすることもできます。保険期間で見た時にリスクファイナンスのコストを平準化できます。
4:保険料が戻る可能性があります。予想の支払損害額よりも実際の支払損害額が低い場合には付帯契約の規定で保険料の一部が返ってきます。プロフィットシェアリングを実現しています。
5:事故の抑止効果があります。リスクシェアリングを行っていくことで企業もリスクの一端を背負っていくことになります。リスクマネジメント推進のインセンティブが高まります。
ファイナイト保険のリスク
ファイナイト保険にも以下のようにリスクがあります。
1:海外では相当量の保険リスクの移転がない限りは保険性が認められない傾向になっています。この点ではイギリスでは保険料の支払いが契約の時点で分からない・また追加保険料の支払いが契約の時点で分からないという2つの要件のうちで1つを満たせば保険として成立します。一方アメリカでは両方の要件を満たさないと保険とは認められない方向になっています。日本ではファイナイト保険の保険性が明示されていません。ファイナイト保険の際の会計及び税務の取り扱いは明確にはなっていません。
海外でこのようなことが問題になっている理由としては、海外の再保険市場において遡及型のファイナイト再保険契約の会計メリットのみに着目した活用がなされたり、粉飾決済の道具として利用されることへの懸念があります。リスクの保有部分に係るファンディング機能に着目して保険という商品を装ってファンディングのみを行う契約は保険しての体をなさないという慣行があります。
2:保険期間が長期に設定されているので保険期間中に保険会社が破綻をした場合の契約不履行。たとえば移転したリスクに対する補償不能・返戻されるべき保険料の回収不能などのケースや企業の倒産による保険料の回収ができないという懸念が1年ごとの保険よりも高まります。
ファイナイト保険の活用状況
ファイナイト保険は1960年代に米国の賠償責任保険の再保険ビジネスを背景として英国のロイズで採択されました。その後世界では各種のファイナイト保険が開発。その多くは再保険という形で利用されてきました。アメリカでは保険危機を契機に企業向けのファイナイト保険も活用されてきています。日本でもこのファイナイト保険の活用に今後の期待がされています。ただまだ日本でファイナイト保険を積極的に利用しようという企業はほとんどありません。2004年に燃料会社のシナネン株式会社が土壌汚染対策に行った契約を含めてごく少数しかありません。