保険デリバティブのメリットと注意点
はじめに
保険商品以外の金融商品で金融資本市場のキャパシティを利用したリスクの移転手法が活用されています。金融や資本市場がリスクの引受機能を担う動きが活発化していくことで保険市場や再保険市場の規模的な制約が補完されてリスクの引受のキャパシティを飛躍的に増大していくことが大事になってきます。
こうした金融商品は今後も開発されるものも含まれます。このような商品としては保険デリバティブ・コンティンジェントデット・CATボンドなどがあります。
保険デリバティブ
保険デリバティブは従来が保険が担保してきた保険の関連リスクに連動していく指標の変動などを対象としているデリバティブ取引になります。この手法を活用していくことで企業は金融や資本市場にリスクを移転することができます。
企業は手数料を払っていくことで保険商品と同様に保険関連リスクをヘッジする保険商品とデリバティブ商品が併存していくことになります。同種のリスクをヘッジする保険商品とデリバティブ商品が並存することにもなります。たとえば保険会社としては天候保険と天候デリバティブ・地震保険と地震デリバティブの商品が併存することになります。よって企業は移転したいリスクについて保険と保険デリバティブでの各々の商品を比較して選択をしていくことができるようになりました。
提供者
日本における保険デリバティブでは今のところこれらの金融商品を提供する金融機関とその金融商品を利用する企業との店頭での相対取引が基本となっています。金融機関は主に保険会社や銀行が商品化や販売を行っています。ただ一部では企業同士のスワップ取引も行われています。近年では保険会社がどんどん新商品を開発しています。保険会社と提携をした銀行などが仲介業務を行っていく動きが活発化しています。
メリット
保険では実損の発生とその損失の発生との因果関係を証明していくことが支払いの条件となっています。ただ保険デリバティブでは因果関係の有無にかかわらず、保険関連のリスクに連動する指標の変動によって契約の締結時に取り決めた条件が満たされた時に限って金銭の授受が行われます。これは天候デリバティブなどでも同様の条件になります。
つまりは自社に直接の損害がなくても異常気象や天候の不良などによって企業を取り巻く環境が悪化する。または交通のインフラがマヒしてしまうことで自社の営業を縮小せざるを得ない場合においても契約の締結時に取り決めた条件を満たすことによって企業が受け取ることとなる金銭を間接的な損害の填補や当座預金の運転資金に回すことができます。
もう一つは契約締結の時に取り決めた条件を満たしていくことで金銭の授受が行われます。保険と比較しても支払いの即時性に優れています。これが保険になると支払い要件に損害額の立証が必要になります。損害の調査から損害額を確定して立証するまでにかなりの時間がかかってしまいます。結果的に資金を確保するための期間が長くなってしまうということになります。
注意点
保険デリバティブでは実際の損害に見合うだけの十分な金額が払われない可能性があります。完全なリスクの移転を行えないという点に注意をする必要があります。たとえば地震のデリバティブではマグニチュードや震度などの客観的なデータに基づいて支払われる金額との間にギャップを生ずる可能性が出てきます。
一般の保険と保険デリバティブの相違点を比較していきます。
保険の支払い要件:保険デリバティブでは契約締結時に取り決めた条件を満たすこと。保険では実損害の発生・事故と損害の因果関係の立証が必要になります。
ベーシスリスク:保険デリバティブでは支払額と実損額にギャップが生じて支払額が実損額に及ばない可能性があります。保険では実損額に応じて支払額が決まります。
支払いの即時性は保険デリバティブでは条件を満たすことで支払いは比較的早めになります。保険では実損害と事故との間の因果関係を調査するのに時間を要するのでそれなりの時間がかかります。
活用状況
巨大災害を対象とした保険デリバティブは1992年にシカゴの証券取引所で取引が開始されました。また天候デリバティブでは1997年にエンロンが開発してその後少しずつ市場が拡大しています。
天候デリバティブを日本国内で最初に利用したのは1999年に某スポーツ用品店と言われています。雪不足に悩む収益の減少に天候デリバティブを活用したというのが起源のようです。その後少しずつ有名になって2005年時点で600億円程度の規模になっています。2020年時点ではおそらく数千億円程度の規模にはなっているのではないかと思われます。
天候デリバティブの市場の拡大を受けて東京金融先物取引所では気温先物取引の国内初の上場に向けて準備に入っています。同所は保険会社などの金融機関の他に商社や商品先物取引会社などの参加を見込んでいます。また商品先物会社を通して個人投資家の参入も可能になります。そうなると天候と関係の深い穀物や灯油などの気温の先物を組み合わせた新たな天候商品デリバティブのようなものが生まれる可能性もあります。
地震デリバティブなども今後のニーズが高まるものと予想されます。今後保険に次ぐリスクファイナンスの手法になるかもしれないという期待を抱かずにはいられません。