研究レポート

リスクファイナンスの促進

リスクファイナンスの促進

はじめに

企業におけるリスクファイナンスの促進には今までのようなリスクファイナンスの手法の多様化を取るかもしくは以下のような制度整備が重要になります。

自社内積立

自社内積立の促進では企業にはリスクファイナンスの一環として引当金や任意積立金を計上していくという手法もあります。ただし企業会計上の引当金として計上するには以下の要件を満たしていく必要があります。

1:将来の特定の費用もしくは損失になること
2:その発生が当期以前の事象に起因すること
3:発生の可能性は高いこと
4:その金額を合理的に見積もることができること

この要件をすべて満たすことで発生が予測される損失の金額を当期の費用をまたは損失として引当金に繰り入れることが可能とされています。特に低頻度大損失事象に係るリスクに備える資金の引き当てにあたっては要件を充足することは極めて困難といえます。またこの4要件を満たす費用または損失は当期の費用または損失として計上しなければなりません。特定のリスクに引当金の要件を認めるとそれを望まない企業も従わなければならなくなります。

企業は株主の了承を得ることによって、税引き後の利益の一部を任意積立金として積立てることも可能になります。この場合でも適正な積立水準が不明確なことなどの理由から株主への説明が困難であることが、実務上自己積立が行われない要因となっている可能性があります。企業のリスクに対する自己積立を政策的にバックアップしていくという観点から、政府としてのリスク情報の共有化によって望ましい積立水準に係る参考情報を提供していくことが必要になります。

このような政策支援・インフラ整備などによって自助努力でリスクに備えたいとする企業も数多く出てくることが予想されます。戦略的リスクファイナンスの中で保有と移転のベストミックスを探っていくという考え方の普及にもつながっていくものと考えられます。

業務分野規制の再整理

銀行における融資先企業への保険募集には募集可能な種目が限定されています。企業のリスクファイナンス促進の観点からは企業の財務部門に頻繁にアクセスしている銀行は特に戦略的なリスクファイナンスの提案を行い易い立場にあります。保険を含めた効率的なリスクファイナンスの提言を行うためには制限はしないほうが良いという意見も出ました。ただ企業のリスクファイナンスを見直していく上では適時修正が必要という方向で意見が一致しました。

また保険募集についても必ずしも明確にかかれているわけではありません。保険の募集資格を持っていない方が企業の企業に保険を紹介するときでも保険業法上の制約から保険を含めたリスクファイナンスのプログラムの提案をしにくいという点もあります。保険とリスクファイナンスのバランスを考えた提案を行いやすい環境を作れるかがカギになります。

ガバナンスの強化

関係者によるガバナンスの強化も企業のリスクファイナンスの取り組みを促していきます。株主・債権者・取引先などからのガバナンスが強化されていくことでリスクファイナンスへの要請が高まっていくことを期待していきたいです。特に証券アナリストや銀行などによるガバナンスについては欧米では貸出金の返済原資による企業の将来のキャッシュフローの確実性を担保していきます。そのためには低頻度で大損失の事象への対応を含めた企業のリスクファイナンスは検討すべき項目になります。

またプロジェクトファイナンスというものも注目がなされています。今後は債権者の信用リスク管理の向上が進展していく中でこのような発想でのガバナンスの強化が図られていくものと思われます。

セーフティーネットの高度化

大規模地震などの自然災害や原子力事故の大事故は事前に予見をしていくことが難しいです。また一たび大きな災害が発生してしまうことで当該地域の事業者や金融機関などの機能不全を招いてしまいます。そこから政府によるセーフティーネットの提供が重要になります。

このようなところから災害や突発的な社会現象などで資金調達が困難になった時の企業への支援策として政府系の金融機関での災害復旧貸付制度の適用や信用保証協会によるセーフティネット保証が考えられます。また災害地域の電力や水道さらに道路などの産業基盤インフラの早期復旧を支援するための長期固定資金の実施などの政策的な金融支援も併せて行われています。

これらの金融支援の他にも、被災地域の企業に対して補助金交付などを行うことで損害に対しての事後的な填補が行われます。これらのセーフティネット制度はこれまでに企業がいかに事前にリスク対策やリスクファイナンスに取り組んでいたかにかかわらず、一定の条件を満たす企業には一律の支援が行われていました

一方事前に企業のリスク管理を促進して、災害による損失を小さくすることを可能にしていくことで経済活動全体の継続性が担保されます。災害の発生後に事後的な政策コストを最小化することができると考えられています。また民間の自助努力で評価・管理が可能な災害のリスクについては、企業によるリスクマネジメントやリスクファイナンスを促進する観点から、事前の対策状況に応じて一定の優遇措置をしていくことなどを盛り込んでいくことでリスク管理のインセンティブをつけていくことなどでやる気を促進していくということを考えても良いのかなという気がします。

さらに災害時の緊急融資では借り入れを希望している企業の返済能力の判断がとても難しいことさらに融資の実行の即時性も強く求められます。正確な与信判断と迅速な融資の実行という相反する事柄をいかに解決していくかも重要な課題になりそうです。

リスク情報の共有

それぞれの企業が低頻度で大きな損失を与える事象が自社に与えていく損害の程度を把握しようとした場合に入手が可能な情報が限定されているもしくはそれがほとんどないのでシミュレーションモデルやシナリオの分析などを活用していきます。そこから試算を行っていくしかないという事情があります。またこのようなモデルの確かなところやリスクファイナンス商品のリスクプレミアムの妥当性を検証していくこともかなり難しいものになります。

災害リスクを一つとっても地震や風水害の災害そのもののデータだけでなく同じような災害によって発生をした損失などについてもデータベース化して十分な情報開示を行っていきます。そのようなところから今までのような課題が緩和をされることもあります。リスクファイナンスの促進に向けてデータの所在での一定の整理を行いつつも必要に応じて政府からこのようなデータを公共財として提供していくことについての検討を行っていく必要があります。

人材の育成と強化

リスクファイナンスの取り組みを行うにはリスクの定量分析を行うことが重要になります。ただ日本企業ではリスク管理を行うべき担当者がリスクの定量分析を行うことがほとんどできていないという実態があります。また企業で高度なリスクファイナンスに取り組もうとした場合でリスクの担当者が十分な金融知識を満たさないということもあってリスクファイナンスの最適化が困難という実情があります。

こうした状況から企業のリスク管理の高度化を支えていくリスク管理の人材の育成や活用を図っていきます。そこから産学連携などを通しての効果的な人材育成の検討や金融工学に関する教育を行っていく専門職の大学院の充実を目指していく必要もあります。

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