キャプティブのメリットとデメリット
はじめに
キャプティブにも当然メリットとデメリットがあります。ここではこのメリットとデメリットを紹介していきます。資産はあるけどその活用方法が難しい・その中でもキャプティブのリスクを享受してでもそれ以上のメリットを見込めると判断した企業にはキャプティブ活用が有利に働きそうです。
メリット
キャプティブを設立して一定の規模で自社のリスクを保有していくことで企業に以下のメリットが期待できます。
1つ目は保険商品による対応が困難なリスクの移転が期待できます。特殊性が高く情報力に差がある場合に起こり得るリコール・環境汚染・監査などの職業賠償責任リスクなどの難しい引受リスクはキャプティブを利用することで問題が解消する可能性があります。少なくてもキャプティブの有するキャパシティー分のリスクを保険という形で自前で保有することができます。
また元受の保険会社がキャプティブを提供できない場合でも再保険市場へのアクセスを可能にしていくことでキャパシティーの確保できる可能性を広げていくことが期待できます。
2つ目はリスクマネジメントのマインドの向上が期待できます。自社のリスクをグループ企業に保有をさせていくことで企業は自らが積極的にリスクマネジメントを真剣に取り組んでいく必要性が出てきます。企業内でリスクマネジメントを行っていこうというマインドが出来上がります。
またキャプティブの管理部門を通していくことで一元化された企業のリスクの分析やリスクマネジメントに資する企業内の啓蒙活動・社内のロスプリベンションの研究や開発・そして企業におけるリスクマネジメントに対する人材の養成を行えることにも期待が持てます。
このようなリスクマネジメントの向上を期待できるメリットの部分は事前に定量的に把握することの出来ない部分になってはくるものの、それを差し引いても企業にとって得られる効果はとても大きいものが期待できます。
3つ目は経済的な効果を期待できます。保険会社としては事業収益が入ってきます。企業が保険会社の提示する保険料率を過去の自社の損害率と比較して割高と判断をした場合、このリスクをキャプティブで保有すると損害率が上がらない限りはかけるべき保険金の率が下がります。
また実際の保険事故件数や保険金の支払額が低く当初の予定よりも保険成績が良い場合にも収益を得ることができます。また運用収益についてもキャプティブ内に留保されている資金からの運用収益も期待できます。
さらに保険のリスクを有するときは企業の自社内に保有する積立金は課税対象になります。一方キャプティブ内に積み立てていく準備金は一定の範囲で非課税になります。また再保険キャプティブの場合は一度元受の保険会社にリスクを移転していくことで自社で自社の支払うべき元受の保険料は損金としての処理を行うことができます。
4つ目は保険会社の運営による付随的なメリットがあります。保険やリスクマネジメントのノウハウを蓄積して再々保険という形で世界の再保険マーケットへのアプローチを行うことができます。そこで再保険市場の保険料の水準を知ることができます。そうなると保険料の交渉が行いやすくなります。キャプティブは企業と保険会社の情報格差を克服するために自社の損害の発生率に応じた保険料の設定が可能になります。そこでリスクファイナンスのコスト削減につながっていきます。
また企業内のグループ子会社の保険契約をとりまとめていくことで包括契約扱いになって全体としての保険料の削減にもつながります。
注意点
キャプティブにも問題点がまったくないということはありません。
1つには保険事業の難しさがあります。キャプティブが保有する保険のリスクの損害率が予定をしていた損害率よりも高かった場合には危険差損が起こります。そうなると余計に保険料を払う必要性が出来てしまいます。最悪のケースを考えるとキャプティブを閉鎖しないといけないという場合も出てきます。よってリスクに見合った資本の積み立てが必要になります。
またキャプティブ内に留保されている資金運用に失敗をする可能性があります。このほかにもキャプティブの運用コストなどもかかります。
もう1つは再保険市場のレートの変動があります。キャプティブから再保険市場へのリスクの移転を前提としてのプログラムやスキームの場合は再保険市場の料率変動の影響を直接に受ける可能性が高いということには留意をしておく必要があります。
日本企業におけるキャプティブ
日本企業でキャプティブを設立しようとしていく場合は、国内では保険業法で定められている保険会社を設立する必要があります。日本にはまだそのような保険会社はありませんのでキャプティブの法制が整備されている国や地域に作る必要があります。もしくは国外に設立された再保険キャプティブを利用するかに限られます。キャプティブの保険契約については従来の保険会社に比較して設立の基準や監督基準などは比較的緩やかにはなっています。それでも日本にはこの要件を満たす保険会社はありませんので海外にキャプティブを作るという流れに今のところはなっています。
日本企業では1970年代にキャプティブを設立したところがあります。それ以降港湾業・自動車製造業・商社などの大手多国籍企業でのキャプティブの設立が進められました。設立地の多くはタックスヘイブン地域となっています。また1978年には日本でもタックスヘイブン税制が導入されるようになりました。タックスヘイブンでの国や地域に設立したキャプティブ内に留保されている利益は親会社の課税の所得に合算課税をされることになっています。
近年の傾向としては高額なPL補償のリスクなどの保険商品の入手が困難なリスクへの対応などをしていく必要があります。その中で企業は一定の規模での自社のリスクを保有していくことによって高度なリスクマネジメントを行っていく必要があるということです。一部の先進的な企業ではキャプティブによるリスクマネジメントを行っている企業も出てきています。
キャプティブに関しては、キャプティブを活用していくメリットがリスク・デメリットを上回るという判断した時はキャプティブを設立したリスクの移転を行うべきではないかと考えています。
参考資料
https://www.meti.go.jp/report/downloadfiles/g60630a03j.pdf#search=’%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%82%AF%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%8A%E3%83%B3%E3%82%B9+%E5%AE%98%E5%85%AC%E5%BA%81%E3%83%87%E3%83%BC%E3%82%BF’