日本におけるリスクファイナンスの現状と課題
はじめに
リスクマネジメントに対する重要性に対する認識は近年高まっています。ただ戦略的にリスクファイナンスの最適化をしようという取り組みはすでに進んでいます。リスクファイナンスの取り組みがあまり進んでいない背景には経営陣の意識・企業の組織形態・内部管理体制等の内部要因・ステークホルダーなどの外部要因、ソリューション・税務会計制度等が考えられます。
内部要因
先進的な事業を除いて最終的な意思決定を行う経営陣の意識が高くないことがリスクファイナンスの問題になります。それがリスクファイナンスの最適化の障害となっています。リスクファイナンス自体は利益のための投資でないこと・小さい頻度で大きな損失が発生するので経営者が及び腰になってしまうのも理解できます。ただ先進的な企業でリスクファイナンスを活用して最適化に成功している企業もあります。そこは主に役員の後押しがあったともいわれています。各企業の経営陣がリスクファイナンスをリスクマネジメントの一環として捉えて認識を深めた上で積極的に関与していくことが望まれます。
社内のリスク管理
多くの企業は総務部門や管財部門をリスクファイナンスの担当として位置づけしていきます。保険の手当て部分のみを取り出して処理していくことが一般的です。全社的な財務戦略の中で自社のリスクファイナンスの最適化を検討するためにはこうした部門の知見と企業の財務部門の観点を融合させることが重要になります。現に一部の先進企業では従来型の保険担当部門と財務部門が一体となってリスクファイナンスの最適化を行っているという話もあります。
また多くの企業でリスクファイナンスの担当部門とみている総務部門・管財部門ではコストセンターとして前年度の保険料実績を意識しながら保険契約の更改処理にあたっています。総務部門等ではコスト削減こそが命題なので移転すべきリスクの存在を知っていても、リスクをそのまま放置することでコストをセーブした方が会社としてのプラスの評価になる可能性が高まります。総務部門がお金を握っている企業は多いですのでこのような点でリスクファイナンスが進まないという点も大きくあります。
外部要因
また日本がリスクファイナンスに関心を持たない理由として適切なリスクマネジメントやリスクファイナンスの最適化にかかわる要請がステークホルダーからなされないという大きな問題があります。メインバンクも提携企業の倒産した時の損害が大きくなるという理由でリスクファイナンスへの投資に弱気になっているところがあります。大手三行をはじめとして銀行の力は落ちてきているのでこの傾向はしばらく続きそうです。
このような点から企業のリスクファイナンスはあまり進んでいません。株主や債権者などによるリスクファイナンスのガバナンスが弱いということも考えられます。株主や債権者といった資金提供者による企業のガバナンスは今後より適切に行われることが望ましいといえます。
その他にも企業は取引先の選定にあたって取引先企業の提供する商品やサービスの質に加えて災害時での商品の安定供給についても従来以上に重視しているようになってきています。これまで以上に企業のリスクファイナンスへの取り組みが重要になります。
またこれまでの企業のリスクファイナンスの取り組みや災害や事故などが発生した場合に資金確保ができないことによって事業の中断などが起こり得ます。そのような場合のような時でも取引先がどの程度リスクファイナンスに関心を持つのかも今後大事な要素に関わってきそうです。ただそれが近い将来可能になるかというとそうは思えません。
金融事業者からの問題
企業のリスクファイナンスのソリューションの提供業務に関わる方は商品の提供を行う・商品の仲介や代理契約を行う・商品活用のコンサルティングを行うという3部門に分かれます。企業は3つのソリューション提供者を通して各リスクファイナンスの商品の提供を受けていくことで自社のリスクファイナンスの最適化に取り組んでいくことになります。
今までは業種の区分を超えた商品の提供には法律上の厳しい規制がありました。ただ規制緩和の進展で銀行が融資先に対して行う保険の募集や有価証券の販売に一定の制限が加えられている点を除くと銀行や証券さらに保険の各金融機関が業務範囲の拡大を進めています。
ただ実際にソリューションの提供者からは従来の商品の枠を超えたトータルソリューションの提供そして保険とコミットメントラインなどの金融機関同士のコラボレーションがあまり行われていないという実情があります。またソリューション提供者からは一部の規制の存在と規制上の取り扱いが不明確であることでトータルでのソリューションの提供が行えない状況にあるという声も聞かれています。
企業の主体的アプローチ
ソリューション提供者である金融機関は既存の商品やノウハウを有する得意商品を中心とした営業活動を行っていません。またリスクファイナンスのトータルソリューションの提供は活発に行われていません。企業におけるファイナンスのニーズが少しずつ高まっていることを受けて一部のソリューション提供者では対応を始めるも多くのソリューション提供者はまだ関心がないもしくは手を出せないという理由で動けていません。
企業で各種のソリューションを組み合わせてリスクファイナンスの最適化を行う場合にソリューション提供者から受動的にリスクファイナンスの商品の提供を受けるだけではなく、ソリューション提供者との積極的なコミュニケーションを図っていきます。各金融機関からのソリューションを主体的に比較考量する又は必要に応じて金融機関同士のコラボレーションを能動的に養成していくことも必要になります。
リスクファイナンスの各手法を網羅的に検討していく際に企業の知見が十分でないと判断をした場合には自社にとってのリスクファイナンスのプログラムについてのアドバイスやコンサルティングを行っている業者などを積極的に活用していくことも大事になります。リスクファイナンスの最適化を図っていく上では合理的な選択肢の一つではないかと考えられます。
税務会計面での課題
リスクファイナンスに要するコストについて考えた場合にはコンティンジェントデットや保険デリバティブに関しては準用できる会計基準や税務当局の指針があるものの保険会社との間でのリスクシェアリングを実現させるファイナイト保険に係る保険料の取り扱いが必ずしも明確ではないとの声が多く聞かれています。
またリスクに備える資金を引当金の名目で自社内に積み立てていきたいというニーズが企業にはあります。ただそのような資金を社内で積み立てていく場合には資本の効率がどうしても悪くなってしまいます。また必要以上に内部留保を蓄えているとして他の企業に買収をされたり株主からの増配あるいは自社株の買い入れの消却の要求を受ける可能性があります。企業の自立的なリスクマネジメントを促していく上でもこのようなリスクファイナンスに関連した制度整備に力を入れていくことが大事になっていきそうです。